2013/2/14-15に開催されたDevelopers Summit 2013(通称:デブサミ2013)で楽しみにしていた講演の1つが「【15-B-3】ICTでクルマと社会をつなぎ、安全・快適で低炭素なモビリティー社会の実現に向けたHondaの挑戦」です。個人的にも感動したのでブログにしておきます。
資料:http://www.slideshare.net/devsumi/2013-16661715
記事:“テレマティクス”でクルマと社会をつなぐ-ビッグデータを活用したホンダの挑戦
Togetter:http://togetter.com/li/454857
詳しい内容は記事に譲るとして、ざっくりと説明を。
より最適なルートを探索できるカーナビを作ろうというビジョンのもと「走行しているクルマをセンサーにして、そのデータを会員間で共有すればいいじゃん」というアイデアで2002年に走行データを送信できるインターナビを開発。2003年からは蓄積されたデータを元にしたナビシステムを提供しています。
インターナビは3G回線を搭載(通信費はホンダ持ち!)しており、クルマの位置と加速減速データを定期的に送信しています。ちなみに2012年末には月間2億キロを収集しているそうなので、仮に20mごとに記録しているとすると月間100億件...。
そして、この走行データがカーナビだけではなく、様々な用途に応用されることになります。
2007年の新潟県中越沖地震では「被災地域のホンダ車の走行情報を分析して通行可能な道を判定する」ことに取り組み、通れた道マップとして提供。これはPDFにしてホンダのサイトに掲載されたり、防災関連の団体に提供されました。
また、同じく2007年から「急ブレーキが多発している交差点を割り出し、自治体に提供する」という取り組みを開始しています。優れているのは"事故多発地帯"ではなく、"事故が起こりそうな地帯"という、これまで把握しようがなかった情報で提供される点です。実証実験をした埼玉県では、この情報をもとに自治体と警察が現地を視察し、交通標識や道路標識を変更することで急ブレーキの発生が7割減ったとのことでした。
そして、2012年3月11日の東日本大震災。あまりに大きな被害状況を見た今井さんは走行データをKML/KMZとして提供することを決断します。GIS系に興味がある人ならお馴染みですが、KMLは地理空間情報の標準的なデータフォーマットでGoogle Earthなどに読み込ませると地図上に地点や移動をマッピングすることができます。これまでホンダは通行実績情報をPDFとして提供していましたが、KMLという加工可能なデータにすることで、より多くの人にとって応用が可能になったのです。
もちろん、KMLは個別のクルマの走行データを含むため分析すれば個人情報に近いものです。ですが、東日本大震災という緊急事態においては走行データを活用してもらうことに価値があると判断したのです。そして、この素早い決断と取り組みは非常に高く評価され、日本のみならず世界からも賞賛されました。
印象的なビデオがあるので紹介しておきます。CONNECTING LIFELINESは震災後の走行データを時系列で地図上にマッピングしたもの。通行実績はいわば"生きている道"。まるで血管が通うように道が復活していく様は命の鼓動のようで感動的です。
今井さんの講演の最後のスライドは本田宗一郎の言葉でした。
「人の役に立ちたい。使って便利で楽しいものを提供したい」
そして、今井さんの「僕はテレマティクスの分野で人の役に立ちたいんです」という言葉で講演が締めくくられました。
クルマの走行データがこれほど重要で、社会的な意義を持つような応用が可能であったというのは、クルマが動く社会インフラであるという証でしょう。現状、道路は種類によって管轄組織が違うという問題があり、政府や自治体からは統一されたデータを提供することができません。こうした中で民間から積極的に公共性の高いデータが提供され、それが利活用されているのは素晴らしい事例を言えます。
走行データによるナビ経路の最適化はエネルギー資源の最適化と考えることができます。これもクルマという資源消費と切り離せない産業だからこその発想です。また、今井さんは電気・電子系技術者としてホンダ初の役員待遇参事になっており、ホンダとしてテレマティクスを非常に重視していることが分かります。今井さんは、こうしたデータ活用についてはホンダにとどまらず、世界中への展開を考えていきたいと語っていました。
すべての産業がこうした公共性を持つわけではないのですが「人の役に立つ」という考えは重要だと思います。僕の講演「サステイナブルなSIを実現する開発基盤のあり方」では『SIという形態で様々な顧客を通じて社会とつながる仕事がしたい』と話しました。人の役に立つITは持続します。そういうITを発想し、実現していくことがエンジニアに求められているのだと信じています。今井さんの講演を聞いて、そんな思いを新たにしました。