仕事の中に生成AIが組み込まれ、生成AIが専門的な問題まで解決できるようになってくると、人間の役割は、「どんな問題をAIに解かせるか」を考え、適切に提示することへとシフトしていきます。
つまり、「何のために、何をすべきか」を、顧客と調整や合意をしながら、何度も改善を重ねていくという「正解のない仕事」が、これから増えていくでしょう。
でも、こうした仕事では、正解が見えない焦りや、他者との関わりの中で、不安が生まれやすくなります。
正解のない仕事とは
たとえば、こんな経験はありませんか?
- お客さんに「なんか違う」と言われ、説明の糸口がつかめない
- 何度も修正を繰り返し、どれが「正解」なのか分からなくなる
- 会議で反対意見が出るたびに、自分の判断に自信がなくなる
- チームメンバーと方向性が揃わず、ひとりでモヤモヤする
- 提出前の資料を、何度も見返しては「これで大丈夫か?」と手が止まる
こんなふうに、「正解のない仕事」には、不安がつきまといます。
今回は、これまで僕なりに取り組んできた「不安との付き合い方」を3つ紹介したいと思います。
1.悩みすぎない
正解のない仕事では、「これでいいのか?」「もっといい方法があるのでは?」と悩みは尽きません。もちろん、「悩むこと」は悪いことではありません。むしろ、自分と向き合おうとしている証拠です。ただし、悩んでいるだけでは、事態は前に進みません。
「掟の門番」からの教訓
フランツ・カフカの短編『掟の門番』には、こんな話があります。
ある男が「法」の門の前に立ち、「入れてほしい」と門番に頼むが、「今は通せない」と断られる。
男はそこで何年も待ち続けるが、門番に断り続けられ、その門をくぐることはできない。
男は老人となり、死の間際、門番に「なぜ誰もここを通らないのか」と尋ねると、門番はこう答える。
「この門は、お前だけのためのものだった。今から閉じよう。」
この話は、「自分の行動を、他人に許可を求めてはいけない」ということです。そもそも、門は閉じていなかったかもしれないし、門番は男が通ろうとしたら止めなかったかもしれません。これは「いつか、誰かが助けれくれる」という白馬の王子様シンドロームにも通じます。
「直感」と「勢い」は違う
悩んでいるだけでは前には進みませんが、「悩むのはよくない」と勢いやノリで行動するのも良くないです。 勢いやノリとは、考えることをやめた状態、悩みから逃げている状態です。
一方の 直感とは、考え抜いた先に浮かび上がる瞬間の判断です。経験を重ねた人の直感は、パターン認識に基づく優れた判断であることが多いですが、まだ経験が浅いうちは、「直感」と言いながら、それが「悩みからの逃げ」になることもあります。
悩みを「外に出す」
では、悩みすぎないためにはどうしたらいいかというと、悩みを“自分の外”に出してみることです。
- 紙に書き出して、頭の中を整理する
- 信頼できる人に相談してみる
- 関連しそうな本を読んでみる
そうやって、「悩みを言葉にして形を与える」のです。悩みというのは、頭の中で考えていても、モヤモヤしていて、正体が分かりません。でも、悩みを言葉にしてみることで、悩みがいくつかあることや、原因だと思っていたことが実は違っていた、ということがわかったりします。
「悩むのは良いこと」だけど「悩んでいるだけでは、何も起きない」ので、自分なりのやり方で、悩みを明確にすることで、ようやく「悩みを解決する」という行動に進んでいくことができます。
僕の場合は、書けることであればブログにすることも多いですし、やはり、本を読むのは大事です。
2.学びがあればOK
仕事に取り組むからには「成果を出したい」と思うのは自然なことです。評価されたい。役に立ちたい。自信を持ちたい。どれも健全な動機です。
でも、「成果を出すこと」だけが目的になると、「成果を出せそうな仕事」ばかり選んでしまうようになります。
できそうなこと、に流れない
成果を出せそうな仕事というは、いざとなったら誰かが正解を知っている仕事、過去に似た経験がある仕事、「たぶんこれは上手くいく」という見通しが立つ仕事などです。
もちろん、そういう仕事も大事ですが、「できそうな仕事」ばかりをやっていても自身の成長に限界が生まれてします。
失敗を学びと言い換える
白熱電球を発明したエジソンは、フィラメントに適した材料がなかなか見つからず、苦労をしました。そんな時、新聞記者に「なぜ、あなたは何度も失敗したのに、前に進めるのですか?」と聞かれ、こう答えました。
I have not failed. I’ve just found 10,000 ways that won’t work.
私は失敗したのではない。ただ、うまくいかない1万通りの方法を見つけただけだ。
エジソンにとっては「1万回の失敗」ではなく、「1万回の学び」だったのです。仮に成果が出なくても、そこに学びがあり、少しでも前に進んだのであれば、それを成功と捉えてしまえばいい。
考えながら取り組む
仕事の成果に関係なく「学び」を得るには「なぜ今これをやっているのか」「次にどう活かせるか」を考えながら行動することが大事です。
- 「指示されたことをやる」のではなく、「なぜ、これをやるのか」を考える
- 過去にやったことでも、一歩立ち止まって「前回と違う場所はないか」「本当にそのやり方でいいのか」を考える
- 仕事の間には、成果に関係なく、ふりかえりをして「できたこと」「もうちょっと変えたいところ」を考える
僕は、幸い「考えながら動く」ことが好きなので、他人の評価よりも、自分の興味を優先して、新しいことに取り組むことができます。
3.成長できていると信じる
社会人になると、成長の実感が持ちづらくなります。テストであれば、点数や順位、合格・不合格など、成果が明確に見えます。
でも仕事ではどうでしょう?
- 評価は半年 or 年に一度
- 誰かと比較しにくい
- 評価の基準も曖昧
そうすると、日々を過ごしていても、何かが変わった実感が持ちにくくなります。こうして、「自分はちゃんと成長できているのか?」と不安になってしまいます。
点と点は、あとからつながる
スティーブ・ジョブズが2004年にスタンフォード大学の卒業式で行った有名なスピーチに、こんな言葉があります(YouTube)。
You can't connect the dots looking forward; you can only connect them looking backwards.
未来を見ながら点と点をつなぐことはできません。振り返ったときにはじめて、それらがつながっていたことに気づくのです。
「点」というのが日々の行動です。今の時点で、それらの「点」に意味があるかどうかわからない。あとから振り返ってみることでしか「あの経験には意味があった」とは感じられないのです。
自分の“何か”を信じる
でも、それだけでは不安ですよね。ジョブズはこうも言っています
You have to trust in something — your gut, destiny, life, karma, whatever.
あなたは“何か”を信じなければならない。それが直感でも、運命でも、人生でも、カルマでも、なんでもいい。
自分が成長しているのかどうかは、今はわかりません。なので、今、自分がやっていることが成長につながるであろうことを、「何か」をもとに信じる必要があります。
その「何か」は人それぞれです。
僕自身は、「自分の感性」を信じています。それが世の中で言われている一般論とは違っていても、自分が正しいと思うことを主張するようにしています。
まとめ
僕の経験としても「不安がなくなる」とか「不安に打ち勝つ」みたいなことはできません。むしろ、不安というエネルギーを、うまく自分の行動につなげていくことが大事です。
1.悩みすぎない
→ 悩むのは悪くない。自分の外に出して、形を与える
2.学びがあればOK
→ 成果だけを求めない。学べたことがあれば、それでよし
3.成長できていると信じる
→ 今は実感できなくても、積み重ねた点はあとでつながると信じる
では、具体的には、何をすべきでしょうか。以下の3つをおすすめします。
① 自分にあった「悩みの出し方」「学び方」を探す
自分にあった悩みの出し方や学び方の「ツール」を見つける必要があります。これは、人によって違います。僕は日記とかマインドマップは、全然ダメでした。いろいろ試して、自分のスタイルを育てていくことが大事です。これが社会人になってから10年ぐらいかけて見つけましょう。
② 自分の価値観をあらわす「言葉」を見つける
自分の信念や価値観を表現するための「言葉」を見つけます。偉人の名言でもいいし、マンガや本の一節でもいいです。言葉にすることで、いつでも思い出すことができて、自分の行動の軸になります。この記事にある言葉も、僕なりに見つけてきた言葉です。
③ 自分で考え続ける
最後に大事なのは、「自分で考え続ける」ことです。誰かの助言は大事ですが、依存してはいけません。自分の足で立つことから逃げてはいけません。ここに書いた内容ですら、あなたのとって合わないものかもしれません。
世の中は、どんどん不確実になっていっています。誰の心からも不安が消えることはないでしょう。だからこそ、上手に不安と付き合う方法を見つけることが重要になるのです。