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ITアーキテクト 鈴木雄介のブログ

ビジネスとITをつなぐのは、手法ではなく「姿勢」

ビジネスとITをつないでいく、という目的でアジャイル開発やマイクロサービスなど、さまざまな手法やツールが導入されています。もちろん、それらの導入によって成果をあげた企業はたくさんあります。

しかし、いわゆるエンタープライズな事業会社では、そうした手法の導入がうまくいかないケースが少なくありません。その原因は、手法やツール自体の選択ではなく、それをどう使うかという組織の姿勢に違いがあると感じています。

成功する企業には共通の「姿勢」がある

私の経験上、アジャイル開発やマイクロサービスを導入して、成果を出している企業にはいくつかの共通点があります。

それは、採用している手法やツールではなく、日々の判断や取り組みに表れる姿勢の違いです。もちろん、適切な手法やツールの選定は重要です。しかしそれ以上に、導入を決めたものを使いこなそうとする姿勢こそが重要なのです。

どんな手法やツールを選択していたとしても、それを成果に繋げるために使いこなそうと努力している組織は、苦労や失敗があったとしても、最終的には前に進んでいきます。

組織に根づく3つの姿勢

私の経験では、成果を上げている企業に共通していたのは、次の3つの姿勢です。

1. 目的はビジネス成果

手法やツールによって成果を出す企業では、それらの導入を目的化することがありません。手法の導入やツールを整備は、ビジネス成果を実現するための手段である、と定義しています。よって、手法の評価は「正しく運用できているか」ではなく、「事業や顧客に貢献しているか」になります。

たとえば、Scrumのイベントをやっていても、そこにビジネス成果の実現に向けた非効率さや不透明さがあると感じれば、その理由を確認し、無理に続けるのではなく、どうすればいいかを検討します。例えば、スクラムイベントと並行して、別のミーティングを開催してみます。

もちろん、まずは忠実に形式を守ることは大事なことです。しかし、常に検証が行われます。「ルールを守っているからOK」ではなく「このルールは何のためにあるのか?時間をかけただけの成果を上げているのか?」を確認します。なぜなら、ルールを守っていても、ビジネス成果につながらなければ意味がないからです。

一方で、手法を追加する時にも、困りごとが明確になっています。こういうビジネス成果を上げたいと考えているが、どのようなチーム編成やバックログの管理をすればいいのか?というような形です。(参照:アジャイルチーム同士のつなぎ方 - LeSS、SoS、Scrum@Scaleに学ぶチーム連携構造の作り方 - arclamp

こうした「目的はビジネス成果だ」という姿勢があるからこそ、成果が出るまで努力し続けることができるともいえます。

2. 実践から学ぶ

手法を取り入れる際に、必要以上に失敗を避けようとする姿勢は、かえって導入の遅れにつながります。うまくいっている組織では、手法を「ルール通りに運用されたらうまくいく」ではなく「やってみないと本当のところは分からない」と捉えています。

たとえば、新しいルールを導入した際、あまり成果につながらなかったとしても、単に「ルール通りにやっているからOK」や「ルールが悪いからルールを変えよう」と評価するのではなく、「やってみた結果、なにが良かった・良くなかったのか」といった失敗から学ぶ努力をします。

というか、こういった組織では実践した時に起きる課題を失敗とは思っていないのです。それは必要な過程であり、学びだと受け入れます。

このような姿勢があると、現場は安心して試行錯誤ができます。「手法を導入するからには絶対に成功しなくてはならない」という姿勢になると、仮に導入後に違和感があったとしても「問題ありません」という評価をしたくなります。そして、いつか、破綻するレベルまで問題が広がってから「やっぱりダメでした」という結果だけが残ります。これでは学びに繋がりません。

逆に、手当たり次第に手法やツールを導入してもダメです。実践をして評価する、という過程は簡単にやれることではありません。そのことがわかっているので、新しい手法やツールを知ったとき「この手法は、チームのビジネス成果に繋がるのか?」を話し合い、実践する価値があるかを判断します。

そうやって手法やツールに対して、実践を通じて向き合うことで、組織はそれらを使いこなす力をつけていくのです。

3. チームメンバーの意見を平等に聞く

手法やツールはチームで運用されるものであり、役割や立場にかかわらず、すべてのメンバーが関わります。成果を出している組織では、意見や気づきを立場で分けずに扱います

とりわけ、事業会社において外注エンジニアがチームに加わるケースでは、「外部だから」といった暗黙の線引きが、手法の柔軟な運用を妨げることがあります。たとえば、外注メンバーが運用上の課題を感じていても、それを意見できる空気がなければ、改善のチャンスは失われます。

一方、意識的にチーム内の誰もに意見を求める組織では、問題が早期に共有され、調整や改善の動きが自然に生まれます。手法に関する知見や、実践における違和感を誰もが出せる状態こそが、継続的な取り組みを支える基盤になります。

ただし、これは責任の分散にならないようにすべきです。どんな手法やツールを採用すべきか、外部のエンジニアに丸投げしているようでは組織として成長することはありません。平等に意見は聞くが、判断はリーダーが責任を持って行うことが必要です。

姿勢の継続が「手触り」を生む

これまで述べてきた3つの姿勢を継続していくと、組織の中に新しい感覚が育っていきます。私は、これを「手触り」と呼んでいます。この手触りとは、チームの中で予測的に意思決定や調整がなされていく感覚のことを指します。「やらないでも、わかるようになる」のです。

たとえば、ある企画担当が新しい機能のアイデアを思いついたとき、それが技術的にどの程度難しいか、どのくらいの工数になるかが、なんとなくわかる。あるいは、エンジニアが要件を聞いた瞬間に「この話は簡単そうに見えて、こういう課題が出る」と判断できる。

こうした判断が個人の中でできるようになり、チームや組織として共有されている状態が「手触りのある組織」です。

ビジネス成果を目標に、手法やツールに関する様々なルールを実践していく中で、学んだことを、また新たなルールとして整備し、その中で組織やチームが似たような感覚を身につけていく過程です。

もちろん、この感覚が生まれるまでには時間がかかります。しかし、それが身につき始めた組織は非常に強いのです。積み重ねた時間に意味が出てきます。

ビジネスとITをつなぐのは「姿勢」

どの手法を選ぶか、どのツールを導入するかはもちろん重要です。しかし、それ以上に重要なのは、それらにどう取り組むのか、という姿勢です。

  • 目的はビジネス成果
  • 実践から学ぶ
  • チームメンバーの意見を平等に聞く

これらの姿勢があることで、手法が実践の中で活用され、組織のビジネス成果につながっていきます。そして、その積み重ねが「手触り」として現れるようになると、組織はより強くなっていきます。

もはや、言い古されていることかもしれませんが、最近、改めて感じる機会があったのでまとめてみました。