本日、「DXリーダー必修講義 6つのキーテクノロジー」(日経BP 2024/12/20)という本を上梓しました。
アジャイル、クラウド、DevOps、マイクロサービス、クラウドネイティブ、プラットフォームエンジニアリングという6つのテクノロジーについて、その登場の背景と取り組み、その効果と課題を解説した現代エンタープライズIT領域における歴史書です。
どんな特徴があるの?
この本は「6つの技術に取り組んでレガシーシステム問題を解決しながらDXを実現しようよ」というだけです。特徴的なのは、時系列に沿って技術の本質的な理解を促している点です。残念ながら、いわゆるDX本のように「さらりと読んで理解できる」というものではありません。「読むのはちょっと面倒だけど、結果的には分かりやすい」を目指しました。
そもそも、技術というのは「課題を解決の繰り返し」です。何か背景となる課題があり、そこでの解決として技術が生まれ、その技術が次の残課題を産み出し、そして、次の技術につながっていきます。6つの技術も以下のような年表で登場しています。こういう「技術の流れ」を理解することで、それぞれの技術について、より本質的な理解ができるようになるのです。
どんな人が読むの?
タイトル通り「DXにおいて技術面の取り組みを推進したいリーダー層」を対象にしています。DXを取り組むにあたり「それぞれのキーワードは聞いたことがあり、なんとなく理解している」みたいな人が、それぞれの技術とつながりを深い理解し、自社での活用方法を把握することができます。
大前提は「DXリーダーは、このぐらいは理解しておいてほしい」という想いです。事業会社の経営陣の中に、この本を読んで「面白い」と言うレベルの人が増えていかないと、日本のDXは進みません。そのレベル感を、きちんと示したいと思っています。
技術への投資は、単に「最新のテクノロジーを使えばいい」という話ではなく、組織としての継続性を人や予算も含めて保証し、その上での活用まで想定されていないと意味がありません。そういう意味でも技術についての深い理解は欠かせません。
ちょっと内容を教えてよ
全体は3部構成になっていますので、簡単に内容を紹介します。
第1部 DXを阻む正体
経産省のDXレポートでは「レガシーシステム」が問題になりました。レガシーシステムは、1つの象徴的な存在ですが、結局、ここ30年ぐらいのIT投資によって企業は、様々なITロックインに陥っています。
金と人材のロックイン | レガシーシステムにお金がかかり、新規領域に投資する予算と人がいない |
業務領域のロックイン | 業務とシステムが個別最適してサイロ化し、全体最適ができない |
思考のロックイン | 新しい技術があっても、これまでの思考でしか理解できない |
このようなロックインは、いきなり解決できるものではないです。時間をかけて変化しておく必要があります。つまり、とりあえずは現状システムを維持しながら、長い時間をかけて全体最適を段階的に進めていき、その経験を通じて、組織全体が新しい思考に変容していくという地道は話です。もう、それ以外に正解はないです。魔法のように問題が解決されてることはありません。あとは、いかに効率的に取り組むのか。
第2部 ITロックインを解き放つ技術群
こういった問題に真摯に取り組んできたのがGAFAMのようなウェブサービス企業です。これらのウェブサービス企業は、そこらの企業よりも巨大なシステムを運用する必要があり、かつ、ビジネス環境の変化に対応する必要があります。そのためにアジャイル、DevOps、マイクロサービス、プラットフォームエンジニアリングといった技術を進化させてきました。
これらの技術について、それぞれ登場してきた課題、どのように課題を解決するのか、どんな副作用があるのか、そして、エンタープライズに適用するための注意点などを紹介しています。
第3部 ITロックインからITエンパワーへ
こうした技術群を活用し「企業内プラットフォームを整備せよ」というのが本書の主張です。企業内プラットフォームには、3つの目的があります。
DXのため | 新たなDXプロダクトを作るために企業内プラットフォームを整備し、複数のレガシーシステムをラッピングしたAPIを整備する |
レガシーモダナイズのため | DXプロダクトのために作った企業内プラットフォーム内に蓄積されたデータを活用し、レガシーシステムの機能を段階的にクラウドシフトしていく |
内製化のため | DXプロダクトやモダナイズを通じて経験を積み、内製化を少しずつ進めていく |
企業内プラットフォームの成果は生産性やリリーススピードだけではありません。整備が進むと、ビジネス部門、開発部門、運用部門など、さまざまな部門のコミュニケーションが誘発され、顧客からのフィードバックとリリースを繰り返しながらシステムを改善していくという流れができてきます。この「企業が変化に対応できる」という状態が、企業内プラットフォームを通じて達成すべきことです。