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ITアーキテクト 鈴木雄介のブログ

モデル:現実世界と仮想世界をつなぐもの

経済産業省による「平成24年度我が国情報経済社会における基盤整備(「データ・エコノミー社会」を見据えたデータ流通環境整備に関する調査事業)」へ協力をさせていただきました。その中で行われたインタビューが記事になっています。

やがて訪れるデータ・エコノミー社会の将来像〜ビッグデータだけでは見えない情報社会の真実〜[第5回]鈴木雄介氏「ビジネスにはデータに表現できない強さがある」
第1回 第2回 第3回

調査の趣旨は、

データと実態の価値が限りなく接近する「データ・エコノミー社会」の到来を想定して、そこで起きることや、そのことの影響などを主にビジネス分野にフォーカスして調査していく。

という感じです。他にも公文先生、田端信太郎さん、森祐治さんらがインタビューを受けたものが記事になっています。僕はITの現場側にいる人間としてコメントをさせてもらっていました。

インタビューや、その後のディスカッションを通じて、ITが中心となっていく社会の中でエンジニアが何をすべきか、感じたことを書いておきます。


モデル:現実世界と仮想世界をつなぐもの
システムの開発には「モデル」が重要です。モデルは"現実の世界"とシステムが構築される"仮想の世界"を繋ぐための枠組みとしてとらえられます。よって、モデルをいかにデザインするか、というのがシステム開発の要です。

現実世界と仮想世界の関係性は歴史の中で変遷しているように感じます。理想論として語られていたのが「現実世界を仮想世界に再現する」ということです。要は現実世界から対象物を取り出して、それをまるごとモデル化しようとしたのです。人工知能のようなものもそうですし、セカンドライフのようなメタバースも同じように感じます。ですが、そういったものの成果物を見ると分かるように「現実世界を仮想世界に再現する」ことには大きな壁がありましたし、今後もなくなることはないでしょう。どんなにモデルを太らせても現実との境目がなくなることはなかったのです。不気味の谷を越えるのは簡単ではありません。

一方で、仮想世界そのものは現実世界とは関係なく成長していきます。


仮想世界の暴走と現実世界への影響
現実世界と切り離された仮想世界は大きく成長し、近年では「仮想世界の暴走と現実世界への影響」という事態を招きます。サブプライムローン問題を発端とした世界金融危機が「信用危機」とも呼ばれているのは、仮想世界で仮想的に作られた"信用"が現実世界の実体と大きな乖離を生じていたためです。結果、信用と実体の急激な調整が行われ、現実世界には大きな影響を与えました。

これは「現実世界が仮想世界に飲み込まれる」ような恐怖として理解されたように思います。企業の解体にとどまらず金融規制は強化され、仮想世界に仮想的な枠組みを導入することで仮想世界の暴走を抑制しながら実体との乖離を防ぐようになりました。

金融だけではなくソーシャルネットワークをあげてもよいでしょう。FacebookTwitterなどのリアルタイムなコミュニケーション、あるいはソーシャルゲームのような競争を通じたコミュニケーションは、ポジティブかネガティブかは別として明らかに現実世界に影響を与えています。

こうした状況でのモデルは、仮想世界を通じて現実世界の人間に影響を与えることが重視されます。人間の行動や考え方をハックし、行動に傾向性を与えます。ゲーミフィケーションと言えば美しいですが、射幸心を煽ることとの境目は非常にグレーです。


日常の裏側としての仮想世界
とはいえ、こうした仮想世界の暴走が社会にあたえる影響は限定的とも言えます。金融やコミュニケーションツールは重要ですが、日常生活の中の全てを覆うようなことではありません。むしろ、交通、流通、物流、建築といった、朝起きて、会社に通って、帰ってきて夕飯食べて寝るという一連の"日常"を支えるシステムのほうがよほど重要ではないでしょうか。

僕としては、こうした日常の裏側にいる仮想世界に対して、どのようにモデルをデザインすべきか、というのが興味を引きます。ですが、正直、現状ではうまくいっていないと感じています。

"人"は現実世界の中で起きる"物事"と対峙しています。そうした物事は一面を切り取り概念化して仮想世界に持ち込むことが可能です。1個の荷物がある、温度が1度上がったといったデータ化が行われることで物事は"データ"となります。

一方で、生のデータは、そのままでは人間が触れることはできませんし、理解ができません。よって、データを再構成/再編集し"情報"という形にします。情報とは人間が理解可能であり、行動を起こせるための現象として現実世界に還ってきます。荷物が届いたというメールであり、エアコンの温度計が変化するいったことです。


これからのモデルデザイン
とても難しいのは、この循環の全体を通じてモデルをデザインする必要があることです。人と物事、物事とデータ、データと情報、情報と人というそれぞれの要素の関係性すべてを透過的に接続しうるモデルを考えるのです。これを図にしてみました。

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そして、当然のことながら、これらとは別のレイヤーとしてテクノロジー限界点の調整(アーキテクチャ設計)やプロジェクトマネジメントを考える必要があります。

どこから手を付ければいいかも不明瞭ですし、結局は一度に全てを考えて調整する以外に方法はない気もします。

個別ではビジネスデザインからドメイン駆動、UI/UXまで様々な取り組みが進んでおり成果も出ていると思いますが、これから求められるのは、これらを接続し継ぎ目無くデザインをすることでしょう。そうでなければ本当の成果にはつながりません。


まとめ
小難しいことを書いてきましたが「社会の中で役立つためにITをデザインする」というのが、エンジニアとして取り組むべきことです。そして、取り組むためにはITのことだけではなく、現実世界や社会のことも学ぶ必要があります。簡単ではありませんが、じっくりと取り組んでいきたい所存です。